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大阪地方裁判所 昭和56年(ワ)5488号 判決 1986年5月07日

原告 甲野一郎

右訴訟代理人弁護士 大原篤

同 大原健司

同 播磨政明

同 瀬戸則夫

被告(第四四四〇号事件) 甲野花子

<ほか四名>

被告(第四四四〇号事件、第五四八八号事件) 乙山株式会社

右代表者代表取締役 甲野三郎

右被告ら訴訟代理人弁護士 山中康雄

右訴訟復代理人弁護士 大上政義

主文

原告の第四四四〇号事件請求及び第五四八八号事件の主位的請求をいずれも棄却する。

被告乙山株式会社の昭和五六年六月二八日開催の第三四期定時株主総会における別紙(一)記載の決議を取消す。

訴訟費用は、これを二分し、その一を原告の負担とし、その余を被告らの負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

(第四四四〇号事件について)

1 原告と被告らとの間において、原告が訴外亡甲野太郎(昭和三九年一二月六日死亡)を相続した被告乙山株式会社の株式一万五七五〇株を有することを確認する。

2 訴訟費用は、被告らの負担とする。

(第五四八八号事件について)

1 (主位的請求)

被告の昭和五六年六月二八日開催の第三四期定時株主総会における別紙(一)記載の決議が無効であることを確認する。

2 (予備的請求)

被告の右定時株主総会における別紙(一)記載の決議を取消す。

3 訴訟費用は、被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は、原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  第四四四〇号事件の請求原因

1  訴外亡甲野太郎(以下、「太郎」という。)は、被告乙山株式会社(以下、「被告会社」という。)の代表取締役であり、かつ被告会社の株式四万八二〇〇株を所有する株主であった。

2  太郎は、昭和三九年一二月六日死亡し、原告(長男)、被告甲野花子(妻、以下、「被告花子」という。)、同甲野二郎(二男、以下、「被告二郎」という。)、同甲野三郎(三男、以下、「被告三郎」という。)、同甲野四郎(四男、以下、「被告四郎」という。)及び同甲野春子(長女、以下、「被告春子」という。)の六名が太郎を相続した。

《省略》

三  第五四八八号事件の請求原因

1  原告は、被告会社の株主である。

2  被告会社は、昭和五六年六月二八日第三四回定時株主総会(以下、「本件株主総会」という。)を開催し、同総会において、別紙(一)記載の決議(以下、「本件総会決議」という。)をなした。

3  しかしながら、本件総会決議は、次の理由により、無効である。

(一)(1) 太郎の死亡前における被告会社の株主の構成は、太郎四万八二〇〇株、原告六〇〇〇株、被告花子一二〇〇株、同二郎三〇〇〇株、同三郎二〇〇〇株、同四郎及び同春子各一〇〇〇株であったが、昭和三九年一二月六日太郎が死亡し、昭和四一年六月二〇日その相続人間に前記一、3記載の遺産分割の協議がなされた結果、その株主の構成は、原告二万一七五〇株、被告花子四四〇〇株、同二郎七〇五〇株、同三郎一万一四五〇株、同四郎八二〇〇株、同春子九五五〇株となった。

(2) しかし、被告会社が昭和四八年八月一八日に新たに作成した株主名簿には、太郎所有の株式四万八二〇〇株につき、相続により被告花子が二万五〇三八株を取得し、原告、被告二郎、同三郎、同四郎及び春子の五名が二万三一六二株を共有する旨記載され、さらに昭和五五年一二月二七日に再度作成された株主名簿には、右共有とされた二万三一六二株につき、被告二郎が三七九株、同三郎が八〇五〇株、同四郎が七五五〇株、同春子が二五五〇株を取得し、残り四六三三株は、原告、被告二郎、同三郎、同四郎及び同春子の五名が共有する旨記載された結果、現在、株主名簿上の被告会社の株主の構成は、原告六〇〇〇株、被告花子二万六二三八株、同二郎三七七九株、同三郎一万〇〇五〇株、同四郎八五五〇株、同春子三五〇〇株、そして、残る四六三三株を原告、被告二郎、同三郎、同四郎及び同春子が共有していることになっている。

(3) 被告会社は、本件株主総会において、右共有とされた株式については、権利行使者の指定がないとして、議決権の行使をさせなかったが、これを除く株式につき、株主名簿に記載された持株数に応じて議決権を行使させ、本件総会決議をなした。

《以下事実省略》

理由

第一第四四四〇号事件について

一  請求原因1(太郎の被告会社における地位等)及び2(太郎の相続関係等)の事実は、いずれも当事者間に争いがない。

二  遺産分割の協議の存否について

1  右争いのない事実に《証拠省略》を総合すると、次の事実が認められる。

(一) 太郎は、昭和三八年六月胃癌と診断されて入院し手術等の治療を受けて同年八月二五日退院し、自宅で療養していたが、病勢が序々に進行し、昭和三九年一一月重態に陥り、同年一二月六日死亡した。

(二) 原告は、太郎の死後、その遺産について相続税の申告をなすにあたって、その当時、太郎の遺言がなく、また相続人間に遺産分割の協議もなされていなかったので、昭和四〇年六月七日他の相続人の承諾を得て、西成税務署に対し、遺産のうち、不動産については相続人らがそれぞれ法定相続分に従って相続し(すなわち、妻である花子三分の一、その他の相続人各一五分の二)、被告会社に対する貸付金及び被告会社の株式三二〇〇株(その経過は(三)で認定のとおり)については均等割合(各六分の一)で、電話加入権については原告が、その余の遺産については被告花子が、相続したとして、その旨の申告をした。

(三) その際、太郎の遺産である被告会社の株式四万八二〇〇株については、そのまま申告した場合には多額の相続税を課せられることが明らかであったため、既に第三者の名義株とされていた三万三〇〇〇株は申告すべき遺産の範囲から除外し、残りの株についても、遺産として申告するのは三二〇〇株だけとし、その余の一万二〇〇〇株については他人の名義を借りるなどして、遺産から除外することとし、原告の友人である訴外丙川松夫三〇〇〇株、被告四郎の友人である訴外丁原竹夫三〇〇〇株、同戊田梅夫二〇〇〇株、被告二郎一〇〇〇株、同人の友人である訴外丁田十郎三〇〇〇株にふり分け、相続開始前に遡らせた日付の株主名簿(《証拠省略》はその写)を作成し、これを相続税の申告書に添付した。

(四) ところが、被告花子は、右申告後間もない昭和四〇年七月頃、自宅茶室の押入れに保管されていた不動産帳に挟まれている、太郎の遺言の意思を推定させる記載のある文書五通を発見した。

(五) そして、被告花子は、右文書が昭和三九年七月二六日頃に作成されていることから、その記載を太郎がその有する財産について最終の処分意思を表わしたものであると考え、昭和四〇年七月他の相続人に対し、太郎の意思を尊重して右意思に沿う遺産分割の協議をすることを提案し、他の相続人もこれに同意し、同年一二月から相続人らの協議が度々もたれることとなった。

(六) ところで、前記相続税の申告に対しては、相続財産の過少申告を理由に昭和四〇年一二月三日付相続税更正決定及び加算税の賦課決定の通知がなされたので、相続人らは右決定に対し、同月二八日付で異議申立をなしたが、その頃相続人らの中心となって相続税の問題に関して税務当局と折衝していた原告は、担当係官に対し、前記太郎の文書が発見されたので遺産分割の協議をしたうえで相続税の修正申告と更正の請求をしたい旨相談したところ、右係官から異議申立に対する結論が出るまで待つように指示された。

(七) 原告は、昭和四一年春頃から、他の相続人とも相談しながら、前記太郎の文書の記載に沿った分割案を作成するため、相続不動産の評価をするなどしていたが、同年六月頃、税務署の担当係官から、前記異議申立に対する結論が近く出される旨を聞き、併せて同年六月一〇日付で遺産分割協議書を提出してほしい旨指示されたので、同月一九日分割協議を成立させるべく、他の相続人を被告花子宅に招集した。

(八) 相続人らは、右の席において、原告が作成してきた資料を参考に協議し、その結果、被告花子については、既に不動産を生前贈与されていること、同被告については、将来、再度相続問題が生じることもありうるから、不動産を相続させないとすることが太郎の意思であったことなどを考慮し、被告会社の株式三二〇〇株と現金、債権、家庭用財産、電話加入権合計一〇八三万〇八〇〇円相当を相続することとし、その他の相続人については、相続不動産を別紙(二)記載の一覧表記載のとおりの取得割合でそれぞれ相続することの合意が成立した。

(九) 被告四郎は、右当日合意成立後直ちに、その合意内容を書面に作成し、後日これをもとに一覧表を作成した。

そして原告は、同月二三日頃、相続人の署名押印を得て遺産分割協議書《証拠省略》を作成したが、その日付は相続人の話合いで同月二〇日とされた。

(一〇) なお、右協議の際、その基礎とされた不動産の価格算定の根拠が、原告の時価評価であることから、それによる不公平はいずれ専門家による鑑定を行って清算することも、同時に相続人間で合意された。

(一一) 原告は、右分割の協議によって太郎が三分の一の持分権を有していた大阪市《番地省略》及び同所《番地省略》の土地の右共有持分権を相続したが、原告が昭和四四年七月二三日これを他の共有者である被告四郎同三郎とともに他に売却するにあたって、他の相続人は住民票及び印鑑証明書の交付を受けるなどして、原告への相続登記手続に協力した。

(一二) しかし、太郎の遺産である被告会社の株式のうち、被告花子が相続することとなった太郎名義の三二〇〇株を除く、他人の名義とされた四万五〇〇〇株については、分割協議の対象とされなかった。

(一三) 原告は、昭和四八年八、九月にかけて、名義株主である訴外丙田秋夫他六名から合計一万六四〇〇株を譲受けたとして、被告会社に対し名義書換手続を求めたが、これを拒否された。

以上の事実が認められ(る。)《証拠判断省略》

2  ところで原告は、太郎の遺産である被告会社の株式四万五〇〇〇株については昭和四一年六月二〇日に相続人間において分割の協議が成立している旨主張し、一部これに沿う《証拠省略》が存するが、直接右主張事実を認めるものではなく、しかも前掲各証拠に照らし、にわかに措信し難く、他にこれを認めるに足る証拠はない。かえって、右株式については分割協議の対象とされていなかったことは前記認定のとおりである。また、相続人間に黙示の合意による分割がなされているとの主張も、右1で認定した本件分割協議の成立経過、とりわけ、相続人間では、当初から、第三者名義とされた右株式を遺産の範囲から除外し、分割の対象から除外することとしていたこと及び右協議の目的が相続税の修正申告をなすにあたって、その相続分を確定するためであって、もっぱら相続不動産を対象に協議がなされたものであることに照らせば、右主張も認めることができない。

三  したがって、原告の第四四四〇号事件請求は、その余の点について判断するまでもなく理由がない。

第二第五四八八号事件について

一  請求原因1(原告の株主権)及び2(本件株主総会において本件総会決議がなされたこと。)の事実は、いずれも当事者間に争いがない。

二  被告会社の株主構成について

1  太郎が昭和三九年一一月六日死亡したこと、その死亡前における被告会社の発行済株式総数六万二四〇〇株の株主構成が太郎四万八二〇〇株、原告六〇〇〇株、被告花子一二〇〇株、同二郎三〇〇〇株、同三郎二〇〇〇株、同四郎及び同春子各一〇〇〇株であったことは、いずれも当事者間に争いがない。

2  原告は、右太郎所有の株式について、昭和四一年六月二〇日相続人間に遺産分割の協議が成立したと主張するところ、前記第一、二1及び2判示のとおり、右の株式のうち三二〇〇株を被告花子が承継する旨相続人間に協議が成立したものの、残る四万五〇〇〇株については分割協議が未了であるから、右主張は理由がない。したがって、右四万五〇〇〇株は、相続人らの準共有状態にあるものである。

三  本件株主総会決議の瑕疵について

1  請求原因3の(一)(2)(被告会社の株主名簿の記載)及び(3)(本件株主総会における議決権行使)の事実は、いずれも当事者間に争いがない。

2  ところで、被告会社は、右株主名簿の記載について、太郎の遺産である四万五〇〇〇株に関しては遺産分割の協議がなされていないのであるから、右株式については法定相続分による相続が開始し、原則的には被告花子はその三分の一、その他の相続人は各一五分の二の割合で当然に可分である右株式を分割承継したものであり、ただ各相続人の太郎からの生前の受益分を考慮してその承継すべき株式数を決定し、従前の持株数にこれを加算した結果、右株主名簿記載のとおり株主構成になった旨主張する。しかしながら、株式は単に一定の配当を受領する権利或いは売却して代金を受領する権利というような金銭的価値だけを有するにすぎないものではなく、議決権などの会社の経営に関与する権利を含んだ会社に対する株主たる地位を表章するものであって、民法四二七条の適用がある可分給付を目的とする債権ではないから、株式を共同相続した場合、遺産分割によってその帰属が定められない限り、共同相続人の準共有に属するものと解するのが相当である(最高裁昭和四五年一月二二日第一小法廷判決・民集二四巻一号一頁)ところ、本件では、右株主名簿の記載が、相続人の協議によって右太郎の株式が分割されて、その承継人からその旨名義書換請求がなされたところを表示したものではなく、原告を除いた相続人の意向を呈して、被告会社が株主名簿を創造的に作成したものであることは、被告会社の自認するところである。

そうすると、被告会社の株主名簿の記載は、被告会社自身、太郎の株式について分割協議が成立していないことを知りながら、一方的に右株式が当然相続人に分割帰属するものと考えて作成したものということになり、いまだ準共有状態にある真実の権利関係に反するものであり、右株主名簿の記載に基づいて議決権が行使された本件総会決議には、少なくともその決議方法に法令違反が存するというべきである。

3  原告は、主位的に本件総会決議が無効であることの確認を求め、その原因として、先ず、その主張にかかる遺産分割の協議により取得した株主権を無視し、被告会社が恣意的に作成した株主名簿の記載に基づいて本件株主総会において議決権を行使させた違法を主張し、次に仮定的に、太郎所有の株式が未分割であり、相続人が共有しているのであるならばその権利を行使するについては、権利行使者が指定されていなければならず、この者の指定がない以上、議決権を行使できないから、この議決権を行使できない株式数の割合からすれば、本件総会決議は法律上不存在ともいうべきであり、別紙(一)の3及び5の決議については原告の反対で否決されて効力がない旨主張するので、この点について検討する。

第二の一、二1、2、三1記載の争いのない事実に、《証拠省略》によると、被告会社には、定款上、株主総会開催のための定足数の定めがないこと、本件株主総会には委任状分を含めて株主全員が出席していること、そして本件株主総会では、前記株主名簿の記載に基づいて、被告花子以外の相続人の共有と記載された四六三三株を除く株式について議決権が認められ、本件総会決議がいずれも原告(議決権を認められた株式数六〇〇〇株)が反対しただけで、賛成多数をもって承認可決(但し、別紙(一)記載5の決議については三分の二以上の多数をもって)されていること、遺産である四万五〇〇〇株が共有状態にあって、議決権を行使できないとした場合、別紙(一)記載1、2、4については賛成多数で可決(すなわち、被告会社の発行済株式総数六万二四〇〇株から、右四万五〇〇〇株を控除した一万七四〇〇株のうち、賛成一万一四〇〇株、反対六〇〇〇株)されているが、同3については反対多数(議決権は、一万七四〇〇株のうち、被告二郎、同三郎、同四郎の議決権は利害関係があることから除外されるので一万一四〇〇株となり、うち賛成五四〇〇株、反対六〇〇〇株となる。)で否決され、同5については賛成が三分の二の多数に達せず(議決権一万七四〇〇株のうち、賛成一万一四〇〇株、反対六〇〇〇株で、定款変更に要する議決権の三分の二にあたる一万一六〇〇株に達しない。)否決されることになること、以上の各事実が認められ、右認定に反する証拠はない。

右認定事実によれば、本件株主総会には株主全員が出席しているのであるから、株主総会として存在し、商法に規定する決議の成立要件(商法二三九条、二四〇条)をも充足しているから本件総会決議は有効に存在し(当然無効ではない)、また本件総会決議の内容自体が法令又は定款に違反するものではないことは明らかである。

以上によれば、原告の主位的請求は理由がないことになる。

4  原告は、予備的に本件株主総会における決議の方法に瑕疵がある旨主張し、本件総会決議の取消を求めるところ、右2において判示したように、本件総会決議には、その決議方法に瑕疵が認められ、その瑕疵は右決議を取消すべき事由に該当するものというべきであるから、原告の予備的請求は、その余の点について判断するまでもなく理由があることになる。

第三結論

以上の次第であって、原告の第四四四〇号事件請求及び第五四八八号事件請求のうち主位的請求はいずれも理由がないから失当として棄却し、第五四八八号請求のうち予備的請求は理由があるからこれを認容することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条本文に従い、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 川口冨男 裁判官大西良孝、同村岡泰行は転補のため署名捺印できない。裁判長裁判官 川口冨男)

<以下省略>

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